『甘い誘惑と、50歳の再出発』
診察室を出て、駅に向かう足取りは重い。
彼女のバッグの中には、帰りに買う予定だった「期間限定の生チョコドーナツ」のメモが入っていた。
50歳。
人生の折り返し地点。
彼女にとって、家事や仕事を終えた後の「おやつ」は、単なる栄養補給ではなかった。
ポテトチップスの小気味よい歯ごたえはストレスを砕き、アイスクリームの冷たさは高ぶった神経を鎮めてくれる。
クッキーやビスケットを紅茶に浸す時間は、誰にも邪魔されない至福の聖域だった。
しかし、手渡された診断結果の数値は、その聖域に「立入禁止」のテープを無情に張り巡らせた。
彼女は、帰宅してすぐキッチンにある「おやつ専用」の引き出しを開けた。
そこには、昨日まで彼女を笑顔にしていた住人たちが並んでいる。
バターの香りが漂ってきそうな厚焼きのビスケット。
塩気がたまらない、特大サイズのポテトチップス。
冷凍庫の奥に隠した、濃厚なキャラメルアイスクリーム。
「……今日まで、私を支えてくれてありがとうね」
独り言をつぶやきながら、彼女はその中から一袋のクッキーを手に取った。
いつもなら迷わず封を切るが、今は裏面の「栄養成分表示」が目に入る。
脂質、炭水化物、カロリー。
数字は嘘をつかない。
今まで見て見ぬふりをしてきた「ツケ」が、自分の血管の中で静かに積み重なっていたのだ。
翌朝、彼女はスーパーの製菓コーナーではなく、ナッツと果物の売り場にいた。
カゴに入れたのは、ポテトチップスの代わりに素焼きのアーモンド。
ケーキの代わりに、旬のいちご。
「いきなり全部やめるのは、きっと続かないから」
自分に言い聞かせながら、彼女はキッチンに立った。
今まで「誰かのために」作ってきた料理を、これからは「自分の体のために」作る。
出汁を丁寧に取り、野菜の甘みを引き出す。
それは、濃い味付けのジャンクフードに慣れきった舌を、元の場所へと戻していくリハビリのような作業だった。
一ヶ月後。
彼女は夕食後、おやつを食べる代わりにスニーカーを履いて外に出るようになった。
50代の体は、無理をすれば悲鳴をあげるが、労わればちゃんと応えてくれる。
歩きながらふと、ショーケースに並ぶ華やかなケーキが目に入った。
以前なら迷わず店に飛び込んでいただろう。
でも今は、「またいつか、本当に特別な日にね」と、穏やかな気持ちで通り過ぎることができた。
「中性脂肪を抑える」という目標は、いつしか「自分を大切にする」という生き方に変わっていた。
夜風を浴びながら歩く彼女の背中は、半年前よりも少しだけ、軽やかになっていた。
貴方も、突然ですが、健康診断の結果で
「コレステロールが高めですね」
「中性脂肪を抑えましょう」
などと言われて、悩んでしまっていませんか。
実はそれ、あなたが普段楽しみにしているおやつが原因になっているかもしれません。
おやつはつい無意識に食べがちですが、実はコレステロールや中性脂肪の上昇を引き起こし、
動脈硬化などの生活習慣病のリスクを高める可能性があります。
つまり、脂質が高めの方にとって、おやつはコレステロールの増加をさらに悪化させてしまう存在なのです。
それでも、普段の生活でおやつは楽しみの一つですし、できればストレスなく食べたいですよね。
でも、心配しないで大丈夫です。おやつの選び方を少し変えるだけで、薬に頼らずコレステロールを下げることは可能です。
今回は、脂質が高めの方が避けるべきおやつと、代わりにおすすめのおやつをあわせてご紹介します。
「本当にそれだけでいいの?」と思うかもしれませんが、本当なんです。
どれも簡単にできる方法ばかりなので、ぜひ最後まで見て実践してみてください。
それでは、順番に見ていきましょう。
脂質異常症とは?
脂質異常症とは、血中のコレステロールや中性脂肪が基準値を超えて多くなっている状態のことです。
主な基準値は次のとおりです。
総コレステロール:220mg/dL以上
悪玉(LDL)コレステロール:140mg/dL以上
善玉(HDL)コレステロール:40mg/dL未満
中性脂肪:150mg/dL以上
これらの数値が高いまま放置されると、心筋梗塞や脳卒中など、命に関わる病気のリスクが高まることが分かっています。
なぜ脂質異常症は危険なのか?
その理由は、血管の詰まりを引き起こすからです。
血液中にコレステロールが増えすぎると、血管の内側にたまり、
血流を妨げる「プラーク」と呼ばれる塊ができやすくなります。
これが動脈硬化の原因となり、血流が悪化することで、心臓や脳に十分な血液が届かなくなってしまいます。
「それならおやつを完全にやめればいい」と思うかもしれませんが、普段の生活でおやつを完全に断つのは、なかなか難しいですよね。
特に脂質が高めの方にとっては、おやつの内容を見直すことが重要です。
高カロリー・高脂肪なおやつを頻繁に食べると、血糖値が急上昇し、コレステロール値や中性脂肪がさらに悪化しやすくなります。
また、質の悪い油を使ったおやつは腸内環境を悪化させる可能性もあります。
脂質異常症の方がこうした油を摂り続けると、腸内の善玉菌が減少し、腸内の炎症が進んでしまうことも報告されています。
脂質が高めの方が控えたいおやつ
① ドーナツ
脂質が高めの方にとって、ドーナツは特に避けたいおやつの一つです。
甘くてふわふわのドーナツは、無性に食べたくなることもありますが、
実は血管や血液に悪影響を及ぼす要因が多く含まれています。
ドーナツには、トランス脂肪酸が多く含まれています。
トランス脂肪酸とは、不飽和脂肪酸の一種で、加工の過程で人工的に作られる脂肪酸です。
ショートニングやマーガリンなど、植物油に水素を加えて固形化した油脂に多く含まれます。
トランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らす働きがあり、血管が詰まりやすくなります。
その結果、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高まることが分かっています。
さらに、ドーナツには糖分もたっぷり含まれており、血糖値を急激に上昇させる「血糖値スパイク」を引き起こします。
これが続くと、糖尿病のリスクも高まります。
また、揚げ菓子にはAGEs(終末糖化産物)と呼ばれる物質が多く含まれ、細胞の老化や血管の硬化を進める原因にもなります。
腸内環境への影響も見逃せません。
質の悪い脂質や糖分は善玉菌を減らし、体内の炎症を進めてしまいます。
どうしてもドーナツを食べたい場合は、量を控えめにする、低糖質のものを選ぶ、
揚げていない焼きドーナツを選ぶなどの工夫をしましょう。
② ポテトチップス
ポテトチップスは手軽でつい手が伸びてしまいますが、脂質が高めの方には注意が必要なおやつです。
問題点の一つは塩分量です。
市販のポテトチップス一袋には約2〜3gの塩分が含まれており、1日の目標摂取量の半分近くになることもあります。
塩分の摂りすぎは血圧を上げ、動脈硬化を進める原因になります。
さらに、高温の油で揚げることでトランス脂肪酸やAGEsが生成され、血管の老化や炎症を進めてしまいます。
ポテトチップスは噛み応えが少なく、無意識のうちに一袋食べ切ってしまいやすいのも問題です。
小さな一袋でも、ご飯1杯〜2杯分に相当するカロリーが含まれていることがあります。
どうしても食べたい場合は、揚げていない焼きチップスを選ぶ、少量をお皿に取り分けてゆっくり噛んで食べるようにしましょう。
代わりにおすすめなのは、ナッツ類や野菜チップスです。
アーモンドやくるみなどのナッツは噛み応えがあり、少量でも満足感が得られます。
目安は一握り、20〜30g程度。よく噛んでゆっくり味わうことがポイントです。
③ ケーキ
控えたほうがよいおやつの、3つ目はケーキです。
ケーキは、脂質が高めの方にとって注意が必要なおやつです。
見た目も華やかで、誕生日やイベントには欠かせない存在ですよね。
「自分へのごほうびに、少しだけなら…」
そう思われる方も多いかもしれません。
ですが、ケーキには血管に負担をかけやすい成分が多く含まれています。
まず、ケーキには飽和脂肪酸が多く含まれています。
これは、バターや生クリームなどの動物性脂肪に多い脂質です。
飽和脂肪酸をとりすぎると、悪玉コレステロールが増えやすくなり、
動脈硬化や心臓の病気のリスクが高まることが分かっています。
脂質の数値を改善したい方には、あまりおすすめできない食品です。
さらに、ケーキにはコレステロールも多く含まれています。
脂質が高めの方が1日にとるコレステロールの目安は、およそ200mg以下とされています。
卵黄1個には、約200mgのコレステロールが含まれています。
ケーキには卵が2個〜3個分使われていることも多く、
一切れ食べるだけで、1日の目安を大きく超えてしまうこともあります。
コレステロールは体に必要な成分ではありますが、
脂質が高めの方はとりすぎないことが大切です。
たとえば、いちごのショートケーキ1切れのカロリーは、約366kcalと言われています。
生クリームが多く使われているため、ケーキの中でもやや高めです。
このカロリーを消費するには、30分ほど歩く必要があると考えると、少し多いですよね。
それでも、甘いものが好きで、どうしてもケーキを食べたい時もありますよね。
そんな時は、選び方を工夫してみましょう。
たとえば、生クリームの代わりに、低脂肪のヨーグルトクリームを使ったケーキがおすすめです。
100gあたりのカロリーは、
・生クリーム:約404kcal
・ヨーグルトクリーム:約247kcal
ヨーグルトクリームはカロリーが低いだけでなく、
ビタミンB2も多く含まれており、代謝を助ける働きも期待できます。
また、シフォンケーキやチーズケーキは、卵や牛乳など、たんぱく質の割合が比較的多く、ケーキの中では太りにくい種類とされています。
ケーキを食べるときは、血糖値の急上昇を防ぐことも大切です。
水分をしっかりとりながら、ゆっくり味わいましょう。
飲み物は、無糖の紅茶、ブラックコーヒー、ノンシュガーのハーブティー、などがおすすめです。
冷たい飲み物よりも、温かい飲み物を選ぶと、体も温まり代謝が上がりやすくなります。
特にハーブティーは、胃腸にやさしく、リラックス効果も期待できます。
少しずつ飲みながらケーキを味わうことで、満足感が高まり、食べすぎ防止にもつながります。
④ クッキー・ビスケット
控えたほうがよいおやつの、4つ目はクッキーやビスケットなどの焼き菓子です。
手軽に買えて、お茶うけとしても人気ですが、
脂質が高めの方には注意していただきたいおやつです。
クッキーとビスケットは似ていますが、クッキーは「糖分と脂肪分が40%以上含まれているもの」と
決められています。
つまり、どちらも砂糖と脂肪が多いお菓子なのです。
市販のクッキーやビスケットには、保存性を高めるためにショートニングやマーガリンが使われていることが多くあります。
これらの油には、トランス脂肪酸が含まれています。
トランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らす働きがあり、血管を詰まりやすくしてしまいます。
また、砂糖や小麦粉が多いため、血糖値が急に上がりやすく、糖尿病や脂質異常症の悪化につながることもあります。
さらに、こうしたお菓子は腸内環境を乱し、体の中の炎症を進めてしまうことも分かっています。
それでも、「たまにはお菓子を楽しみたい」という気持ち、ありますよね。
そんな時は、全粒粉、オートミールを使った、甘さ控えめのクッキーを少量選んでみてください。
全粒粉は食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富で、
腹持ちもよく、血糖値が上がりにくい特徴があります。
オートミールも、生活習慣病の予防に役立つ食品として知られています。
ナッツと一緒に食べると、満足感が長く続き、食べすぎを防ぐことができます。
飲み物は、カモミールティーやルイボスティーなど、ノンシュガーの温かいハーブティーがおすすめです。
ゆっくり、落ち着いて楽しんでくださいね。
⑤ 市販のアイスクリーム
控えたほうがよいおやつの、5つ目は市販のアイスクリームです。
冷たくて食べやすく、「たまになら大丈夫かな」と思われがちですが、脂質が高めの方には注意が必要です。
アイスクリームは冷たい分、甘さを感じにくいため、思っている以上に砂糖がたくさん使われていることが多いのです。
砂糖は血糖値を急に上げやすく、脂質異常や糖尿病のリスクを高めてしまいます。
実は、アイスには主に3つの種類があります。
アイスクリーム・アイスミルク・ラクトアイスです。
この中で特に注意したいのが、ラクトアイスです。
ラクトアイスは乳脂肪分が少ない代わりに、植物性脂肪(トランス脂肪酸)や添加物が多く使われています。
そのため、カロリーや脂質が高くなりやすいのです。
「ラクトアイス=低カロリー」ではないので、表示をよく確認することが大切です。
どうしても冷たいおやつを楽しみたい時は、シャーベットやフルーツを使った氷菓がおすすめです。
乳脂肪を含まないものが多く、コレステロールや脂質が少ないため、比較的安心です。
また、最近は低糖質アイスも増えてきています。
砂糖の代わりに、体に吸収されにくい甘味料を使っているものもあり、
上手に選べば楽しむことができます。
健康診断で医師に
「コレステロールが高めですね」
「中性脂肪を抑えましょう」
といわれたかたは、絶望するのではなく、
普段のおやつを見直して、体への負担を減らすことを考えましょう。
たとえ大好きなおやつでも、少しずつ控えながら、
体にやさしいおやつに置き換えていくことが、
薬に頼らない健康管理の第一歩です。
健康づくりは、急に変える必要はありません。
毎日の小さな積み重ねが、将来の大きな安心につながります。
大好きな、甘くておいしいおやつをやめるなら、病気になってもいいと考えるかたは少ないと思います。
そこで、体にいいおやつに切り替えることで、健康で長くおやつを食べることのできる体で、いてください。
食事、運動、定期的な健康チェックを行いながら、
ご自身の体をいたわっていきましょう。
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